“1応募1採用”は理想ではなく現実的な採用戦略かもしれない
『1応募1採用』
採用に関わる方なら、誰でも一度は考えたことがあろう言葉。
自社にピッタリの人から応募があり、トントン拍子で選考が進み入社する。
何度も説明会をしたり、面接をしたり、お祈りメールを送る必要もなく、応募者も何社も選考を受ける必要がない、まさに、Win-Winの理想形。
そんなのただの理想論。現実的じゃない。採用というのは母集団形成をした上で何度も選考を重ねて・・・それでもミスマッチは起こるものでしょ。
引用:世の中の採用担当の方の心の声
ほとんどの方が1応募1採用なんてただの理想論、無理だと考えています。
でも、あきらめたらそこで試合終了です(採用は全然終わらないのに)
私も採用支援の仕事をしてきた身として、募集からの歩留まりを想定して必要な応募数を集めるご提案をしてきましたし、お客さんの求人に応募が多く入っていると(採用できるかどうか別として)ちょっと安心感がありました。
ただ、最近になって改めて「1応募1採用というのは、これからの時代現実的な採用戦略なのでは?」と思うようになりました。
足元のデータから見る採用市況の現状
まず、採用市況を見ると有効求人倍率は1.26倍。ということは、1人の求職者に対して求人が1.26件あるということです。裏を返すと、1件の求人に対して平均して0.79人しか求職者がいないということになります。
1人が複数社にエントリーするので、体感としてもう少し応募はあると感じるかもしれませんが、実質1求人に対して1人の応募者もいないわけです。
建設業などでは有効求人倍率が5倍以上になるため、1求人あたり0.2人しか求職者はいません。もうこの時点で、「母集団形成」という考え方自体に無理があることがわかります。
なにより人事の方は忙しい
続いて、採用する企業側の実態について確認すると・・・人事担当の72%が兼務の状態であり、採用関連業務に割けているのは業務時間の43.4%。そんな中で、大量の母集団を集めて一人ひとりの応募者とやりとりする時間なんて無理ゲーじゃないですか?応募者が少なければ、一人ひとりに対してじっくり時間を掛けて対応・フォローすることができますよね。
というわけで、1応募1採用こそが中小・ベンチャーにとっては現実的な採用戦略ではないかと思うのです。
では、1応募1採用を実現するためにはどうすればよいか?
1応募1採用のキーワードは「透明性」
人的資本開示、ISO30414、SNSやクチコミサイト…企業は「人的資本」の開示を求められています。職業安定法も改正され、求人情報に関しても的確な表示が義務化されました。
当然、求職者からも「どれだけ働きやすい職場か?」厳しい目に晒されるようになります。たとえ自社に都合の悪いことであっても、隠さず表に出した方が結果として良いと思います。なぜなら、結局良くも悪くも求職者には会社の本当の姿が伝わるわけですから。
ここでは1応募1採用に向けた透明化を5つのSTEPにわけて考えます。
STEP①求める人物の透明化
もし求める人物像がハッキリしていなかったらどうなるでしょう。
めちゃくちゃ不安ですよね。応募者が1人しかいないとして、「この人を採用して良いのだろうか?」「もっとふさわしい人がいるのではないか?」迷っていたら、1応募1採用なんて到底ムリです。
まずは、それぞれのポジションについてどんな人を採用したいのか、求める人物を共通言語化しておきましょう。どうしても難しい場合には、「こういう人はウチには合わない」という求めない人物から考えるのもオススメです。
そして、ぴったりの候補者がいつ自社に興味を持っても大丈夫なように、想いを込めた採用コンテンツを通年で公開しておきます。通年採用とは通念採用でもあると考えましょう。
では、具体的にどんな情報を公開すれば良いでしょうか?
STEP②企業情報の透明化
求める人物が入社を検討するために必要な情報は、応募前にすべて確認できる状態にすることで1応募1採用に近づきます。
「採用広報が重要だ」という話も耳にすることが多くなりました。ブログ、採用ピッチ、SNS、動画、あらゆる形式で自社の企業情報を公開しましょう。ただ、全部のメディアを管理するのはものすごく手間がかかります。採用業務に43%しか時間を割けない人事の方にはしんどいお話。
優先順位として、まずは採用ホームページから始めましょう。転職者の99%がホームページを見る、そして81%が応募を検討するタイミングで見ている、というデータもあります。
ホームページであらゆる情報が確認できれば、応募を検討している求職者は納得した上でエントリーすることができるので、1応募1採用にまた一歩近づきますね。
でも、まだこれだけでは十分ではありません。
STEP③労働条件の透明化
会社の事がわかっても、働くからには労働条件も重要。給与や休日など”募集要項”がわかりづらかったら不安ですよね。詳しい条件を聞いたら希望と違ったので辞退…なんてことが起こっていたら、1応募1採用になりません。
求職者が知りたい上位の項目
・給与/賞与
・休日休暇
・勤務地
・勤務時間
・福利厚生
・教育体制 etc.
このあたりは、質問の余地がないくらい丁寧に書きましょう。間違っても「要相談」「シフト制」など、ふわっとした書き方で終わらせないようにしたいですね。
STEP④仕事情報の透明化
STEP④は仕事情報の透明化。同じ業界の同じ職種でも、仕事の内容は微妙に違うものです。他部署との関わり、使うツールやシステム、会社やチームの方針、評価される行動など。「ウチの会社はこうだよ~」と、見た人が働いているイメージが持てるくらい情報を開示しましょう。
やりがいはもちろん、大変な部分やきつい作業なども伝えることが必要です。言葉だけでは伝わりづらいことは、写真や動画、ピッチ資料など表現の仕方を工夫することで、ミスマッチはなくなっていくはず。
ここまでくれば、1応募1採用まであと少し。
STEP⑤選考方法の透明化
応募があっても正しく選考できなければ、1応募1採用は理想のまま終わってしまいます。それなら、選考方法についても公開してしまいましょう。
大勢の候補者をふるいにかけるのではなく、お互いに理解を深められる選考フローが良いですね。最近では、カジュアル面談や職場見学、就業体験を“応募前”に実施する企業も増えてきました。いわゆるソフトセレクションと呼ばれるやつです。
特定の人だけでなく、多くのメンバーと会う機会を提供しましょう。普段の業務だけじゃなく、イベントなどにも参加してもらいましょう。
一緒に働いてもらい、お互いの理解を深めてから応募してもらえれば、もう選考すら必要ないかもしれません。
すぐに入社が難しい人は、タレントプールとして登録しておいてもらい、時期が来たら改めてエントリーできる制度もあると良いですね。
1応募1採用の世界を実現しよう
ここまでの5つのSTEPをクリアしてきた企業さんは、限りなく1応募1採用に近づいただろうと思います。
このフローは、採用広報や採用マーケティングなど、最近よく聞く採用界隈のトレンドキーワードと似ていますよね。
時代の流れは1応募1採用へと向かっており、この流れはおそらく止まることはないでしょう。それなら、流れに逆らうより流れに乗った方が上手くいくと思いませんか?
多くの候補者が1つのポジションを奪い合うバチェラー採用はもはや過去のもの。お互い素の状態で付き合う中で、自然とベストなマッチングになるテラスハウス採用へと発想を切り替えて、誰をラブワゴンに乗せるか考えることが大切。
全ての会社が1応募1採用に取り組めば、ミスマッチのない世界を実現できるかもしれません。
取り組んでみる価値はあると思います。